■欠陥住宅の被害者の効果的な主張とは?
裁判官の考え方「立証責任」とは
裁判官は「原告と被告のどちらの主張が正しいか、正しい方を勝たせよう」と考えているわけではありません。では何を考えているのでしょうか。裁判官の考え方が分かれば、効果的な主張が何か自ずと理解できます。
欠陥住宅裁判では、被害者である原告は、欠陥とこれによって生じた損害を証拠によって立証します。業者である被告は、欠陥や損害があることを争います。もし裁判官が「主張が正しい方を勝たせよう」と考えてしまうと、どちらの主張が正しいのか判断できないときに、勝訴か敗訴の判断ができなくなってしまいます。
そこで裁判では、権利を主張する者が、これを裏付ける事実を証拠によって証明できなければ、裁判官はこの請求を排斥できるというルールが定められています。これは「立証責任」という裁判の大原則です。
つまり裁判官は「どちらの主張が正しいか、正しい方を勝たせよう」と考えているのではなく、「請求者は立証責任を果たしているか、果たしていれば勝たせよう」と考えているのです。
では欠陥住宅の裁判で、被害者側の権利を裏付ける事実とは何でしょうか。すでに答えは出ています。欠陥とこれによって生じた損害です。これを正確に忠実に実践することが、欠陥住宅の被害者の効果的な主張となるのです。「当たり前だ」と思われるかもしれませんが、これをブレずに貫き通すのは案外難しいことなのです。
業者の悪性格立証は効果がない
例えば欠陥住宅の相談を行うと、相談者から「業者が嘘をついた」「詐欺的な取引だ」「不誠実な対応を受けた」というエピソードをたくさんお聞きすることがあります。おそらく本当に嘘をつかれたのだと思いますし、不誠実な対応を受けたのだと思います。それによって憤りを感じておられて、お気持ちはよく分かります。相談者としては、このような業者の悪性格立証を行えば、きっと裁判官も共感してくれるはずだと考えておられるのだと思います。
しかし残念ながら、業者の悪性格立証は、被害者側の主張としてほとんど効果がありません。なぜなら「立証責任」とは関係ない事実だからです。業者が嘘をついたから欠陥が生じたわけではありません。業者が不誠実な対応をしたから欠陥ができたわけでもありません。
被害者にとって重要な主張は、欠陥とこれによって生じた損害です。「業者が嘘をついた」「詐欺的な取引だ」「不誠実な対応を受けた」といくら頑張って主張しても、欠陥や損害の立証責任を果たしたことにはなりません。それどころか無関係な主張を行うことにより、本来伝えなければならない重要な事実がどんどん隠れてしまいます。
また、業者の悪性格立証に注力すると、業者からは不当なクレーマーという扱いをされることがあります。事実であれば不当なクレームには当たらないのでしょうが、裁判との関係で無関係な主張を行うと、裁判官からは「無関係な主張をしてまで勝とうとしている」という見方をされるおそれがあります。
欠陥住宅の裁判では、被害者側は重要な事実が何かを常に冷静に考えて、これを正確に忠実に主張立証することがとても重要です。