■契約不適合・瑕疵とは何ですか?
契約不適合または瑕疵
建築における「欠陥」とは一般用語であり、法律用語ではありません(製造物責任では「欠陥」は法律用語となります)。建築における「欠陥」を法律用語で言うと、「契約不適合」または「瑕疵」となります。もともと旧民法では「瑕疵」と定められていましたが、令和2年4月1日施行の新民法からは「契約不適合」と改められました。「瑕疵」と「契約不適合」は同じ意味と解され、民法改正による概念の変更はありません。この用語の改正趣旨は、表現を平易化して国民に分かりやすくするためのものです。ということで、建築の「欠陥」と「瑕疵」と「契約不適合」は同じ意味と考えてよいでしょう。
なお、新民法の施行後も、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では、依然として「瑕疵」という法律用語が使用されています。
約定違反、法令違反、その他
「契約不適合」という用語のとおり、請負契約でも、売買契約でも、契約内容に違反することが契約不適合(瑕疵)となります。ただし、軽微な約定違反は、契約不適合(瑕疵)と評価されないことがあります。契約不適合(瑕疵)に当たるか、それとも軽微な約定違反に過ぎないかの判断は難しいですが、裁判所は、約定違反によって何か不具合があるかを1つのメルクマールにしているように思います。性能評価住宅の場合、住宅性能評価書の交付があれば、原則、この性能を有することが契約内容とみなされますので(品確法6条)、この違反は契約不適合(瑕疵)となります。
約定違反が契約不適合(瑕疵)だとすると、法令違反は契約不適合(瑕疵)に当たるでしょうか。建築の場合、建築基準法令が重要な法令となります。ですが、建築基準法令を遵守することは当たり前すぎて、契約書や約款に記載されていないことの方が多いです。この場合でも、建築基準法は建築物の最低基準を定めているものですから(建築基準法1条)、原則として、建築基準法令を遵守することは当然に契約内容になっていると解釈され(法律用語では、黙示の合意や合理的意思解釈に基づく合意などと説明されます)、建築基準法令違反は契約不適合(瑕疵)となります。ただし、この場合でも軽微な法令違反は契約不適合(瑕疵)と評価されないことがあります。個人的には、法の番人である裁判所が、軽微な法令違反というものを軽々しく認定すべきでないと考えています。
では雑な施工はどうでしょうか。裁判官が執筆した瑕疵分類では「美観損傷型(施工精度型)の瑕疵」とも呼ばれています。この場合でも、契約不適合(瑕疵)となることはあります。しかし、契約や法令のような明確な基準がありませんので、見通しを判断することは困難です。また、工事金額、工期、建物の種類や施工部位など様々な事情を総合考慮して契約不適合(瑕疵)が判断されますので、被害者側は主張立証を工夫する必要があります。
欠陥現象ではなく欠陥原因
契約不適合(瑕疵)を主張する場合、具体的にはどの事実を指摘すべきでしょうか?この点は一般の方のみならず、弁護士でも間違えやすいので、注意が必要です。
よくあるのは、目に入りやすい欠陥現象のみを指摘するパターンです。しかし、契約不適合(瑕疵)とは、欠陥現象ではなく、欠陥原因を指します。設計で言えば設計ミス、施工で言えば施工不良です。
雨漏りを例に考えると、室内に雨が漏るのは欠陥現象です。「室内に雨が漏るなら欠陥だ」と言いたいところですが、これだけでは契約不適合(瑕疵)の事実を指摘したことにはなりません。欠陥原因である設計ミスや施工不良の具体的事実を指摘する必要があります。例えば、サッシの納まりや防水材の仕様などが設計基準に違反している設計ミス、あるいは設計図書に違反している施工不良を指摘するのです。何故雨漏りだけで契約不適合(瑕疵)にならないかと言うと、欠陥原因となる設計ミスや施工不良を特定できなければ、これを是正する工事を特定できず、これによって工事金額を算定できないので、適切な損害賠償請求ができないからです。
次に床の傾斜を例に考えると、床が傾いているのは欠陥現象となります。欠陥原因として、床だけの問題であればまだよいですが、建物自体が不同沈下により傾いていれば重大な問題となります。不同沈下が基礎や地盤によるものであれば、是正工事の費用が高額になるおそれがあります。同じ欠陥現象でも、欠陥原因が違えば、主張すべき設計ミスや施工不良が異なり、是正工事の金額も大きく変わるので、この判断はとても重要です。