第9回 建築トラブルの相談窓口
弁護士と建築士のどちらに先に相談すべきか
欠陥住宅被害に遭った場合、できるだけ早い時期に自分の味方になってくれる専門家を見つけましょう。技術的な問題は建築士、法律問題や交渉などは弁護士です。では、どちらに先に相談すべきでしょうか。
結論から言えば、両方に相談するのが理想です。
欠陥住宅問題で建築士に期待されている役割は、建物の現状を調査して、欠陥(瑕疵・契約不適合)の有無や程度、補修方法や補修費用などの調査報告書を作成することです。これは、欠陥(瑕疵・契約不適合)を立証するための証拠作りです。交渉や裁判などで利用します。
ということは、最初から裁判を見据えた証拠作りが必要なのです。せっかく費用を支払って調査や報告書作成を依頼しても、実際に裁判で使えないものであれば費用が無駄になってしまいます。裁判で使えるかどうか、どのようにすれば使えるようになるかは、弁護士でなければ判断が難しいです。
権利の期間制限という法律問題も早いタイミングで確認しておく必要があります。したがって、建築士が調査を行う前の段階から、できれば弁護士の協力を得ておくことが望ましいです。
他方、弁護士だけでは欠陥住宅問題は扱えません。欠陥(瑕疵・契約不適合)を立証するための証拠作りとして建築士の協力が不可欠です。どんなに建築紛争の知識や経験が豊富な弁護士でも、建築士のサポートを必要とします。
このように、欠陥住宅問題における弁護士と建築士の関係は、まさに車の両輪であり、どちらか一方が欠ければ真っ直ぐ前に進むことが難しくなります。
しかし、欠陥住宅問題に取り組む弁護士と建築士の両方の相談窓口を見つけることは容易ではありません。
そこで今回は、私も所属している弁護士と建築士等の団体をご紹介したいと思います。
欠陥住宅全国ネットと全国各地の地域ネット
欠陥住宅全国ネット(欠陥住宅被害全国連絡協議会)とは、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災を契機に、欠陥住宅が社会問題化したことから、全国各地の弁護士、建築士、研究者、消費者らの有志が、平成8年12月14日に設立した団体で、欠陥住宅被害の予防と救済を目的とする活動を続けています。
令和元年8月時点の全国ネットの会員数は、弁護士628名、建築士210名、その他を含む合計905名となっています。
主な活動内容としては、年2回のシンポジウムを全国各地で開催し、住宅の安全に関する最新問題の情報共有を行っています。また、欠陥住宅110番の開催や「消費者のための欠陥住宅判例」という書籍を、平成28年6月までに第1集から第7集まで、民事法務研究から発行するなど、精力的に活動を続けています。
欠陥住宅全国ネット http://www.kekkan.net
また、地域に根ざした活動を行うため、全国各地に地域ネットが設立されています。現在は11の地域ネットが存在し、弁護士と建築士の相談窓口を設置しています。相談、調査、裁判までサポートしていますので、ぜひ最寄りの相談窓口をご利用ください。
欠陥住宅北海道ネット http://www.kekkanhokkaidonet.jp
欠陥住宅とうほくネット http://kekkan-jutaku.net
欠陥住宅関東ネット http://www.kjknet.org
欠陥住宅対策北陸ネットワーク http://kekkanjutaku-hokuriku.com
欠陥住宅被害東海ネット http://www.tokainet.com
欠陥住宅京都ネット http://www.kekkan.net/kyoto
欠陥住宅関西ネット http://www.kekkan.net/kansai
欠陥住宅わかやまネット http://www.kekkan.net/wakayama
欠陥住宅神戸NET http://www.kekkan-kobe.net
欠陥住宅の被害救済に向けた流れ
欠陥住宅の被害救済に向けた流れをイメージしていただくために、欠陥住宅関東ネットの定例相談会、調査、法的手続までの一連の流れご紹介したいと思います。
欠陥住宅関東ネットでは、毎月、定例相談会を開催しています。当日持参していただく資料は、契約書、設計図書、写真、業者とのやり取りの書面、その他参考となる資料です。初回相談では、担当の弁護士と建築士がペアで配転されます。2回目以降の相談でも、原則として初回の担当者が引き続き担当します。相談内容によっては、地盤の専門家、構造の専門家、設備の専門家がさらに加わります。
相談の中で調査が必要な事案と判断されれば、後日、担当建築士が調査を行います。調査は、原則として、予備調査と本調査に別れます。予備調査は、建物の状況や不具合等について、現地で主に目視により事実確認を行い、さらに本調査を行う必要があるかどうかを検討するための調査です。本調査は、欠陥の現状やその原因、補修する場合の補修方法やその費用等について、詳細な調査を行い、その結果によっては詳細な「調査報告書」を作成するものです。
本調査の結果を踏まえて、交渉、ADR(裁判外紛争解決手続)、訴訟等、今後の方針を担当弁護士と協議して決定していただきます。
上記流れは各地域ネットによって若干異なりますので、ご不明な点は各地域ネットの相談窓口に直接お問い合わせください。
裁判の流れについても簡単にご説明します。
裁判は、まず原告が訴状を提出して訴訟提起し、これに対して被告が答弁書を提出して反論し、さらに原告が準備書面を提出して再反論し、という形で交互に主張していきます。裁判の期日は1か月から1か月半くらいの間隔で入りますので、その間に次回主張する側が準備を行います。書面による証拠は、これら主張のやり取りの中で書証として提出します。
双方の主張と書証がある程度出揃った段階で、裁判所は、必要に応じて専門家を選任して手続に関与させます。この手続としては、専門委員制度や付調停手続があります。
その他に鑑定が行われる場合もあります。また、裁判所は必要に応じて現地確認を行います。このような専門家の関与や現地確認などが必要となるため、建築訴訟は通常訴訟よりも多くの時間を要します。
最終的には、和解や調停などの話し合いの手続きで終了するか、話し合いでまとまらなければ、必要に応じて証人尋問などを行い、判決で決着することになります。
次回はコラムの最終回になります。基礎的なノウハウは一通りお伝えしましたので、最後は建築業界の現状と将来について、私の考えをお話したいと思います。