■ホールダウン金物折り曲げ事件
事件受任に至るまで
本件は、業者から売買契約で購入した木造2階建ての新築建物について、建物が擁壁の上にあり、その建物の基礎が擁壁外面の際(キワ)まで張り出す形の跳ね出し基礎となっており、設計を行った建築士の話では、そこで使用されているホールダウン金物が、跳ね出し基礎の形状に沿って90度に折り曲げて施工されているという問題がありました。(ホールダウン金物とは、柱と土台または梁を接合するための金物で、地震等の外力によって柱が土台などから抜けてしまうのを防ぐ役割をもつ構造上重要な金物です。)また、設計図面に記載されている基礎の一部が実際には施工されておらず、擁壁の上に柱が直に載っているなどの問題もありました。 他にも細かな瑕疵はありましたが、大きな問題は基礎部分にあり、設計上及び施工上の瑕疵があることは明らかでした。
購入者は、売主(設計者・施工者)に対し、問題がある基礎部分のやり直し工事を求めましたが、売主は、ホールダウン金物を折り曲げて使用しても問題はなく、補修するにしても追加のボルトとナットで締め付ければ足りるという回答でした。
そこで、私は、訴訟事件として受任し、基礎のやり直し工事を前提とする補修費用、補修工事期間中の仮住まい費用、引越費用、慰謝料、瑕疵の調査費用、弁護士費用などの損害賠償を求める訴訟を提起しました。
訴訟の流れ
被告は当初、訴訟でも瑕疵の有無を争っていましたが、早い段階で当方が主張するほとんどの瑕疵を認めて、主要な争点は損害論に移行しました。
本件では、補修費用の立証にとても悩みました。想定される補修方法は、建物の基礎から上の上屋部分を仮受け柱で一時的に支えて、その間に基礎を斫り、ホールダウン金物を入れて、新たに基礎を作り直すというもので、施工の難度が非常に高いものでした。そのため、通常の工事単価では足りず、実際の工事単価はその何倍もかかることが想定されました。しかし、それがいくらになるのか、実際に補修工事を引き受けてくれる業者が見積りを行わなければ、正確な金額が分かりません。
ところが、瑕疵がある物件を補修する場合で、とくに施工難度が高いときは、補修工事を引き受けてくれる業者を探すのにとても苦労します。裁判係属中となるとなおさらです。現に、依頼者は5社以上の業者に補修工事の見積りを依頼しましたが、全て断られてしまいました。
そこで、やむなく、被告が補修することで事件を解決するという方法を探りました。
しかし、難度の高い施工を被告が行うとなると、さらなる問題が発生するおそれがあるので、第三者の建築士が補修工事の設計責任を負い、別の建築士が工事監理(設計図書通りに工事が実施されていることを確認すること)責任を負い、被告がこれら設計料及び工事監理料を支払うことを条件としました。
最終的には、上記条件に加えて、被告が、補修工事の設計及び施工上の瑕疵担保責任を負うこと、補修工事期間中の仮住まい費用、引越費用、瑕疵の調査費用の全額を負担することで和解が成立しました。
訴訟提起から和解成立までの期間は約1年1か月でした。
コメント
瑕疵の補修工事の見積りを行う場合、通常の工事単価よりも高くなることがあります。その理由としては、本件のように、既存建物が存在する状態で工事を行うことで施工難度が高くなることが考えられます。その他には、補修範囲が狭い部分に限られる工事が多いけれど、通常の工事と同様に職人等の人件費がかかるので、その分㎡単価が上昇すること、引受業者が少なく競争原理が働かないことなどが考えられます。
本件の補修工事は、施工難度が極めて高いものでしたが、無事に工事完了の報告があり、事件解決に至りました。