第6回 損害論
補修見積書の作成のポイント
欠陥(瑕疵・契約不適合)の立証の次に必要となるのは、これを補修する金額の見積りです。補修金額を見積もるには、まず補修方法を決めなければなりません。通常、欠陥について意見を述べた協力建築士が、その流れで欠陥を是正する補修工事の内容を検討して、調査報告書に記載するケースが多いと思います。
実際の工事では図面を作成して工事内容を特定しますが、そこまでの作業を依頼すると図面作成料などの費用がかさむので、補修工事の内容を文章で簡単に説明していただきます。大概はこの程度の特定で足ります。
補修工事を行うときに居住者の仮住まいが必要な場合、想定される「工期」も必ず記載してもらいましょう。これにより、その期間分の仮住まい費用を算定できるようになり、損害として請求できます。
補修金額の見積りは、協力建築士に依頼するか、他の工務店に依頼するか、ケースバイケースです。ただし、一式見積りは避けてください。一式見積りとは、数量や単価の表記がなく、また、材料費や工賃の区別がなく、全て一式にまとめて積算しているものです。数量、単価、工賃などが分からないので、その金額が適正かどうかの判断が難しいのです。そうなると、業者の反論を許すことになりますし、裁判の長期化を招くことにもなります。一式見積りは避けて、「数量」と「単価」は必ず表記してもらいましょう。
単価は根拠を示しましょう。根拠資料は、一般の書店でも販売されている単価本で問題ありません。各工事項目ごとに単価本の該当ページを記載すれば丁寧ですが、見積条件などで根拠とする単価本を表記するだけでも意味はあります。
特殊事情により、単価本に記載されている単価よりも実際の工事金額が上がることがあります。
単価本はある程度の広さを持つ現場を想定していますので、例えば、材料費と工賃を合わせて㎡単位3,300円などと記載されています。しかし、欠陥の是正工事では、建物の部分的な補修を行う場合があり、工事範囲がとても狭いことがあります。このような場合には、単価本どおりの単価では仕事を引き受けてもらえず、実際の工事単価が上がってしまうことがあるのです。
また、例えば仮受け柱で上屋を支えながら基礎の是正工事を行うなど、非常に難度の高い施工を必要とする場合もあります。このような場合には、実際の工事単価も大きく上昇します。
このような特殊事情は備考欄などに補足説明として記載して、想定される実際の工事単価で積算してもらいましょう。
以上のポイントを押さえれば、補修費用を巡る争いが少なくなり、裁判の短期化にもつながるでしょう。
慰謝料は請求できるの?
相談者からよく質問を受けるのは、欠陥住宅裁判で慰謝料を請求できるかどうかです。
住宅は人生最大の買い物と言われています。この場所で家族は日々の生活を送り、子供は成長していきます。家族全員の人生と密接に関わっています。それが欠陥住宅だった場合、被害者が受ける精神的苦痛は計り知れません。
日々そこで生活するわけですから、家族は毎日欠陥と向き合わなければなりません。生活上の不便を強いられることもあるでしょう。雨漏りが何年も止まらないこともあります。漏水によって家中がカビだらけになることもあります。構造上の欠陥によって家族が不安を感じることもあります。ケースは様々ですが、皆一様に精神的苦痛を受けています。
ところが、欠陥住宅裁判では、なかなか慰謝料請求が認められません。なぜでしょうか。
裁判所の理屈はこうです。「欠陥住宅は財産的損害である。」「財産的損害によって精神的損害を被ったとしても、原則として、財産的損害の回復によって精神的損害も回復される。」「財産的損害の回復によってもなお回復されない精神的損害があるという特段の事情が認められない限り、慰謝料請求は認められない。」
本当でしょうか。何かおかしくないですか。欠陥の是正工事を行って財産的損害が回復されたとして、なぜこれまでずっと苦痛を感じていた被害者の精神的損害まで回復されるというのでしょうか。
現状の裁判所の判断が常に正しいとは限りません。時代に伴う国民の権利意識の変化によって、裁判所の判断も変わっていきます。そして私見ですが、慰謝料に対する裁判所の考え方は、改められなければならないと思います。
しかし、最初の質問に戻り、相談者から欠陥住宅裁判で慰謝料を請求できるかと問われれば、残念ながら、請求はできるが裁判で認められた例は少ないと答えざるをえません。
例外的に慰謝料請求が認められる場合とは、居住者の身の安全を脅かすほど重大な欠陥がある場合や、欠陥により長期間の仮住まい生活を余儀なくされた場合などです。
また、慰謝料請求が認められたとしてもその金額は低廉で、高い場合でも100万円から200万円程度が多い印象です。
他に請求できる損害項目は?
補修費用と慰謝料についてはすでに説明しました。その他に請求できる損害項目としては、欠陥(瑕疵・契約不適合)の立証に必要とした建築士の調査費用や報告書の作成費用があります。
欠陥の是正工事などで仮住まいが必要となった場合には、仮住まい費用と往復の引越費用も請求できます。また、建物内に賃借人がいた場合には、賃借人不在期間中の賃料損害が考えられます。建物内で営業していた場合には、営業停止期間中の営業損害も考えられます。
弁護士費用も請求できますが、慣例上、全ての損害合計額の1割しか認められません。また、弁護士費用は、和解ではなく判決でしか認められないのが通常です。
次回は少し休憩を入れます。鉄筋コンクリートとひび割れの閑話です。