第7回 鉄筋コンクリートとひび割れ
昔ながらの木造家屋と違い、鉄筋コンクリート造建物の構造や特性は、皆さんあまり馴染みがないと思います。そのため、なぜ鉄筋コンクリートにひび割れが入るのか、それが建物にどのような影響を及ぼすのか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は、鉄筋コンクリートとひび割れの話をしたいと思います。
建物の構造
本題に入る前の前提知識として、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造について簡単に触れておきます。欠陥住宅問題を理解する上でも重要な知識です。
まず木造(W造)には、大きく分けて、軸組工法と枠組壁工法があります。
軸組工法は、在来工法とも呼ばれている昔ながらの建て方です。建物の縦方向の荷重(鉛直荷重)を柱と梁で支えます。しかし、柱と梁だけでは、地震や台風などによる横方向の荷重(水平荷重)に耐えることができず、建物がぺしゃんこに倒れてしまいます。そこで、柱と梁の間につっかえ棒のように斜めの筋かいを入れることで、横方向の荷重を支えることができるようになります。この筋かいは耐力壁の一種であり、耐力壁には筋かいの他にも構造用合板などいくつか種類があります。
これに対し、枠組壁工法は、まず製材で四角い枠を造り、その枠に構造用合板を打ち付けて面材を造り、この面材で壁や床などを組み上げて建物を造ります。2×4(ツーバイフォー)工法は、この枠組壁工法に当たります。
イメージとして、軸組工法が柱、梁、筋かいなどの「線」(軸組)で建物を構成しているのに対し、枠組壁工法が壁、床などの「面」で建物を構成しているものといえます。
次に、説明の便宜上、鉄筋コンクリート造(RC造)から先に説明します。鉄筋コンクリート造には、ラーメン構造と壁式構造があります。
壁式構造は、木造枠組壁工法のように、壁や床などの面で建物を構成しているものです。
これに対し、ラーメン構造は、柱と梁で建物を構成しています。一見すると木造軸組工法と似ているように思いますが、大きく異なるのは、耐力壁がなくても横方向の荷重に抵抗できることです。柱と梁を鉄筋コンクリートでがっちり固めることで、その接合部がしっかりと固定され、横方向の荷重にも抵抗できるのです。
ただし、大型の地震や台風が頻発する日本において、現行の建築基準法令が求める安全性を満たすには、構造計算によって耐力壁が必要となる箇所も出て来るようです。
最後に鉄骨造(S造)を説明します。鉄骨造には、ブレース構造とラーメン構造があります。(トラス構造などもありますが、住宅にはあまり縁がないので省略します。)
ブレース構造は、木造軸組工法のように、柱、梁、筋かい(ブレース)で建物を構成するものです。ラーメン構造は、鉄筋コンクリート造と同じく、柱、梁で建物を構成するものです。
このように、建物の種類や構造によって、構造上重要となる部材が大きく異なります。また、建物の防水処理の考え方も異なります。
欠陥住宅問題を専門家に相談される際には、最低限、建物の種類や構造を説明できるように理解しておきましょう。
鉄筋コンクリートの部材特性
さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ本題に入りましょう。鉄筋コンクリートとは、文字通り「鉄筋」と「コンクリート」を組み合わせた部材です。
コンクリートはとても硬いイメージがありますね。実際に圧縮力に対してはかなり抵抗できます。しかし、実は引張力に対してはとても弱いのです。簡単にひび割れが発生してしまいます。
これに対し、鉄筋は、引張力に対して十分に抵抗できます。鉄筋をいくら引っ張ってもなかなか引きちぎれないことは容易に想像できるかと思います。
ところが、引張力に対して強い鉄筋は、熱には弱く、酸素や水による酸化現象で容易に錆びてしまうという特性があります。他方、コンクリートは、熱には強く、アルカリ性です。
そこで、鉄筋をコンクリートで覆うことで、お互いの短所を長所で補い合い、圧縮や引っ張りの力に対して強く抵抗し、熱や酸化にも負けない丈夫な鉄筋コンクリートが出来上がるのです。
鉄筋コンクリートのひび割れ
酸化による錆の発生を防ぐため、鉄筋をアルカリ性のコンクリートで覆っていると話しましたが、さらに詳しく説明します。
実はコンクリート自体も酸素に触れることで、表面部から内部に向けて、アルカリ性から中性へと、ゆっくりと中性化が進行します。この中性化が鉄筋のある場所まで到達すると、アルカリ性のコンクリートに守られる状態が失われるので、鉄筋の酸化が始まり、腐食によって耐力が失われていきます。
そこで、建築基準法令は、コンクリート表面から鉄筋までの距離を定めて、アルカリ性のコンクリートが鉄筋を保護する状態が長期間続くようにしているのです。この距離を「かぶり厚さ」と言います。
ところが、コンクリートにひび割れが発生した場合、このひび割れの周囲から中性化が進行していくことになるので、ひび割れの入り方によっては「かぶり厚さ」が減少し、ひび割れが鉄筋まで到達すれば、直ちに鉄筋が酸化していくおそれがあるのです。
ここで「耐力」と「耐久力」という概念を覚えましょう。 「耐力」とは、建物や部材が耐える力です。「耐力」がなくなれば、地震や台風などの外力に抵抗できずに建物が損傷・倒壊します。建物や部材の「強さ」とイメージしてください。
これに対し、「耐久力」とは、建物や部材が耐力を持続できる力です。建物や部材の寿命とイメージしてください。
「かぶり厚さ」不足は「耐久力」の問題として扱われます。例えば、適正な「かぶり厚さ」を確保することで、現状の「耐力」が100年持つ鉄筋コンクリートがあるとしましょう。この鉄筋コンクリートにひび割れが発生し、その分中性化が早まったことで、10年後には内部の鉄筋の発錆が予想される場合、直ちに「耐力」が失われるわけではありませんが、90年分の「耐久力」が損なわれ、10年後から「耐力」が失われていくことになります。
欠陥住宅裁判では、直ちに「耐力」の低下や喪失を招く構造的な問題が重大な欠陥(瑕疵・契約不適合)として扱われる反面、残念ながら、「耐久力」の低下や喪失につながる「かぶり厚さ」の問題は軽視されがちです。
なお、前述の内容からすれば、ひび割れが建物に与える影響を考えるには、鉄筋とひび割れの位置関係など、ひび割れの「深さ」が重要となるはずです。
ところが、欠陥住宅裁判では、ひび割れが部材を貫通している「貫通クラック」は有害なひび割れとして扱われますが、それ以外は、ひび割れの「幅」を基準に判断されることが多いです。
今回のコラムは以上です。すぐに役立つ知識ではないかもしれませんが、多くの方が不安に感じる鉄筋コンクリートのひび割れについて、ご理解の一助となれば幸いです。
次回は、業者のよくある主張を取り上げてみたいと思います。