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弁護士紹介

高木 秀治


事例の目次

建築紛争の事例解説11

汚水逆流事故で慰謝料請求した事件
事件受任に至るまで

本件は、歯科医師である施主が、歯科クリニックを開業するにあたり、鉄筋コンクリート造建物の1階店舗区画をスケルトン状況から歯科医院の内装にする工事を施工業者に発注したところ、配管工事の欠陥により、トイレや流し台などから汚水が逆流したというショッキングな事案です。

一般的に、歯科医院の配管は、患者が座って治療を受ける歯科ユニット、口腔内バキューム、口腔外バキューム、消毒コーナーの洗面台、職員用のトイレの手洗い場、患者用のトイレの手洗い場などの雑排水管があり、これとは別に、職員用のトイレや患者用のトイレの下水管があり、さらに、それぞれの給水管があるので、床下には多数の給排水管が敷かれており、この空間を確保するため、約30㎝の床上げ工事が行われています。

本件工事の排水計画は、当初の設計では、雑排水と下水を明確に分けて、相当な口径の配管が設置される計画でした。ところが、施工業者は、施主の了解を得ることなく、トイレの下水管に、一部の歯科ユニット、消毒コーナーの洗面台、トイレの手洗い場などの雑排水管を接続してしまい、さらに、当初設計よりも細い口径の配管を使用したため、明らかに排水管としての口径が足りなくなり、トイレや消毒コーナーの洗面台などから水がボコボコと噴き出し、汚水が逆流するという事故が、少なくとも3回以上発生しました。そのため、事故発生日は、その日の予約を全てキャンセルして、新たな予約を設定し直して、清掃作業にも追われるなど、クリニックのスタッフは夜中まで作業をして、施主を含めて大変な苦労をされました。

そこで、本件では、修繕費用、営業損害、調査費用、弁護士費用などの通常損害の他に、特に慰謝料に注力して損害賠償請求することにしました。

訴訟の流れ

欠陥住宅裁判において、慰謝料請求は原則として認められません。それは、「①欠陥住宅は財産的損害である。②財産的損害によって精神的損害を被ったとしても、原則として、財産的損害の回復によって精神的損害も回復される。③財産的損害の回復によってもなお回復されない精神的損害があるという特段の事情が認められない限り、慰謝料請求は認められない。」という裁判所の理屈により、原則として認めらていれないのが現状です。

そこで、本件では、訴訟提起の段階で、施主の詳細な陳述書を作成し、下水の逆流事故が生じたときの多大な苦労を丁寧に説明し、写真や動画の撮影報告書を提出するなど、財産的損害の回復によってもなお回復されない精神的損害が分かりやすい主張立証を心がけました。

これに対し、施工業者は、修繕工事について争いましたが、特に慰謝料請求は徹底的に争う姿勢を見せました。

裁判の流れとしては、施主が業務多忙により早期解決を希望され、施工業者も早期解決を希望していたことから、裁判所から早い段階で和解が提案されました。その内容は、施主が請求している修繕費用、営業損害、調査費用などは認めて、施工業者が強く争っている慰謝料は認めないという内容でした。

特に慰謝料に注力していた事案であっただけに、精神的損害が全く考慮されないのは不満がありましたが、早期解決のため、裁判所の和解案に応じる形で事件終了となりました。

訴訟提起から和解成立まで約10か月かかりました。

コメント

欠陥住宅裁判において、慰謝料請求は原則認められません。被害者は実際に筆舌に尽くしがたい苦労をされている事案が多く、昨今は国民の権利意識も強くなってきていることから、裁判所の理論は実態を無視した時代錯誤なものに感じられ、被害者側の代理人としては大いに不満です。

被害者の精神的損害を軽視する日本の司法がいつか変わることを祈りつつ、これからも地道に救済活動を続けて参ります。

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