■隣家の工事によって家が傾いた事件
事件受任に至るまで
本件は、隣家の建物の取り壊し・建て替えの工事期間中、当方の建物が傾き、壁と床との間に隙間が生じ、壁紙がよじれ、建具の開閉不良など様々な不具合現象が生じたため、隣家工事の施主や施工業者などを相手に損害賠償請求の訴訟を提起した事案です。
当初、原告は私以外の代理人を選任していましたが、訴訟提起から約9か月が経過した段階で、訴訟の形勢が非常に不利になってしまったので、建築訴訟に詳しい弁護士を探して、私が受任することになりました。
訴訟の流れ
被告である隣家の家主は、建築の素人ではなく一級建築士であり、本件工事の設計や工事監理に関与していました。そして、建築の素人である原告のことを甘く見て、「工事が建物に影響した証拠は存在しない」、「建物が傾斜したのは老朽化が原因だ」と声高に主張していました。
原告にとって厳しかったのは、すでに工事が完了していたので、過去に不適切な工事があったことを裏付ける新たな証拠を入手できないことでした。
しかし、それでも、建物の傾斜が発覚した時期が工事の時期と非常に近接していた事実や、原告が工事中に撮影した数少ない写真、老朽化では生じ得ない壁紙のよじれ方などを根拠に、隣地の掘削時に周囲の地盤が崩れないよう支えるための山留工事に不備があり、当方の建物が傾斜したことを立証しました。
そして一審判決は、隣家の山留工事によって当方の建物の基礎が沈下した事実を認定し、原告は辛くも勝訴することができました。 その後、被告は控訴しましたが、当方が徹底的に反論したことで、あきらめて控訴を取り下げ、一審判決が確定しました。
訴訟提起から一審判決までの期間は約3年8か月、その内、私が関与してからは約2年6か月でした。また、被告が控訴してから控訴取下までの期間は約5か月でした。
コメント
本件は欠陥住宅裁判の中でも特に難しい要素が2つありました。
1つは、地盤の問題です。建物の欠陥であれば、通常の建築士の専門的知見で対応できますが、地盤の問題となると、構造に詳しい建築士や地盤の専門家の協力を必要とします。
もう1つは、隣家の工事の問題です。自宅の欠陥であれば、自宅建物を調査すれば不適切な施工を確認できますが、隣家の工事となると、当方の建物を調査しても、それだけでは不適切な施工を確認するのは困難です。また、相手方は不利な工事記録を隠してしまいます。本件でも、裁判所に促されてようやく提出された記録は、そのほとんどが黒く塗り潰されていました。
裁判は長く辛いものでしたが、最終的には「天網恢々疎にして漏らさず」を達成することができて、依頼者にはとても喜んでもらえましたし,私にとっても感慨深い事件となりました。